数ある認知症の中でも、脳血管障害を伴う認知症で“脳血管性認知症”があります。
本記事では、この脳血管性認知症の…
- 概要
- 原因
- 合併症
- 症状や特徴
- 進行の仕方
- 診断基準
…などについて解説します。
目次
脳血管性認知症とは?
脳血管性認知症とは…
…を言います。
英語、略語での表記について
脳血管性認知症は英語では…
…と表記されます。
割合
脳血管性認知症は、
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
…とともに四大認知症と呼ばれます。
このなかで、脳血管性認知症は認知症全体の約20%を占めています。
比率
脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症に比べ、男性の割合が高く、女性の2倍近くの有病率が報告されています。
原因
脳血管性認知症の主な原因としては…
- 脳の血管が詰まることによって発症(脳梗塞)
- 脳の血管が破けることで発症(脳出血)
- 脳の表面の膜と脳の空間に存在する血管が破けることで発症(くも膜下出血)
…といった脳血管障害があげられます。
加齢や神経変性が原因ではない点から、その原因は他の認知症(アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症)とは異なります。
合併症
脳血管性認知症の合併症としては、次のようなものがあげられます。
- 高血圧
- 糖尿病
- 心房細動
- 脂質異常症
これらの合併症は、脳血管障害の再発の危険因子ともなるので注意が必要です。
症状と特徴
では、脳血管性認知症の症状と特徴とはどのようなものでしょうか?
主に次のような特徴があげられます。
- 脳卒中発作後,3ヶ月以内に認知症症状が出現する
- “まだら認知症”の病状を呈する
- 身体機能障害を伴いやすい
- 内面の人格は保たれている
以下に詳しく解説します。
脳卒中発作後,3ヶ月以内に認知症症状が出現する
脳血管性認知症は、一定の割合(20~30%)ですが脳卒中を発症してから3か月以内に認知症の症状が出現するケースがあります。
後述する進行の仕方でも触れますが、脳血管性認知症は脳卒中の発作が起こるたび段階的に認知症の症状が進むという特徴があります。
“まだら認知症”の病状を呈する
まだら認知症とは、できることできないことの差が激しかったり、波がある状態を示す認知症になり、脳血管性認知症の特徴の一つとも言えます。
例で言えば…
- もの忘れが激しいのに難しい計算はできる
- 数分前に食事をしたことを忘れてしまっているのに難しい小説を読むことはできる
- 朝起きた時は自分で着替えられなかったけど、夕方にはできるようになっている
…などです。
この特徴のため、家族からは「気のせいかな?」と思われて受診が遅れるというケースも多くあるようです。
身体機能障害を伴いやすい
脳血管性認知症はその背景に脳血管障害があります。
そのため、歩行障害やパーキンソニズムといった動作や歩行に関する障害のみならず、尿便失禁や感情失禁といった様々な身体機能障害を伴いやすいのが特徴と言えます。
内面の人格は保たれている
脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、そして前頭側頭型認知症に比べると比較的内面の人格は保たれていることが多いようです。
そのため極端な性格の変化や反社会的な行為などは見られないと言われています。
しかし、その反面自分自身の身体、認知機能の低下や変化に気づき、抑うつ的になったり自暴自棄になったり、感情失禁として表出するケースもあるので注意が必要です。
治療やリハビリによって改善が期待できる
脳血管性認知症に対して薬物療法やリハビリによってある程度の改善は期待できるようです。
- 抗うつ薬の投与によるうつ気分と認知機能の改善
- 降圧剤の投与による血圧管理をすることで再発を予防し、認知機能を改善させる
- リハビリテーションによる身体機能、ADL能力の改善による認知機能低下の予防
…などが報告としてあります。
進行の仕方について
脳血管性認知症は緩やかに進行していくアルツハイマー型認知症とは異なり、
…という特徴があります。
ちなみに、皮質下血管性認知症では徐々に悪化して動揺性の経過をたどるので注意が必要です。
脳血管性認知症の診断基準について
脳血管性認知症と診断するには症状の有無や状態、画像所見などから総合的に診断されます。
ここでは、最も代表的な血管性認知症の診断基準である“NINDS-AIRENによる診断基準”について解説します。
1.Probable VaDの診断基準
A.認知症
a)記憶障害と,次の認知機能のうち2つ以上の障害がある.見当識,注意力,言語,視覚空間機能,行動機能,運動統御,行為。
b)臨床的診察と神経心理学的検査の両方で確認することが望ましい。
c)機能障害は,日常生活に支障をきたすほど重症である.しかし,これは脳卒中に基づく身体障害によるものを除く。
除外基準
a) 神経心理検査を妨げる意識障害,せん妄,精神病,重症失語,著明な感覚運動障害がない
b) 記憶や認知機能を障害する全身性疾患や他の脳疾患がない
B.脳血管障害
a) 神経学的診察で,脳卒中の際にみられる局所神経症候(片麻痺・下部顔面神経麻痺・Babinski徴候・感覚障害・半盲・構音障害)がみられる。
b) 脳画像(CT・MRI)で明らかな多発性の大梗塞,重要な領域の単発梗塞,多発性の基底核ないし白質の小梗塞あるいは広範な脳室周囲白質の病変を認める。
C.AとBの間隔が3カ月以内
1)明らかな脳血管障害後3か月以内に認知症が起こる。
2)認知機能が急激に低下するか,認知機能障害が動揺性ないし段階的に進行する。
2.血管性認知症の臨床的特徴
A.早期からの歩行障害
B.不安定性および頻回の転倒
C.泌尿器疾患で説明困難な尿失禁などの排尿障害
D.偽性球麻痺
E.人格障害および情緒障害(感情失禁)
3.血管性認知症らしくない症状
A.局所神経徴候や画像異常を伴わない記憶障害・認知機能障害の悪化。
B.認知機能障害以外に局所神経徴候を欠く。
C.画像上、脳血管障害が確認できない。
まとめ
本記事では、脳血管性認知症について解説しました。
- 脳梗塞や脳出血といった脳の血管障害によって発症する認知症
- 脳血管性認知症は男性の割合が高く、認知症全体の約20%を占めている
- 原因としては、脳血管障害が背景にある
- 高血圧や糖尿病、心房細動、脂質異常症といった合併症があり、これらは再発の危険因子になる
- まだら認知症の症状と、身
- 体機能障害を伴うという特徴がある
- 段階的に認知症の症状が進行する
- “NINDS-AIRENによる診断基準”が代表的