2018年の5月に“作業療法”の定義が改定が発表されたのですが…僕の周りも含め様々な意見や反応があるようです。
個人的にはこの改定からも、作業療法士の職域拡大の可能性と必要性を非常に強く感じているんですよね!
そこで今回はこの定義の改定から今後の作業療法の対象と可能性について考えてみます!
目次
- 1 今回の作業療法の定義改定について
- 1.1 「医療,保健,福祉,教育,職業などの領域で行われる」について
- 1.2 「作業に焦点を当てた治療,指導,援助である」について
- 1.3 「作業とは,対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」について
- 1.4 「“人は作業を通して健康や幸福になる”という基本理念と学術的根拠に基づく」について
- 1.5 「対象となる人々とは、身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測される人や集団」について
- 1.6 「作業には~人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれる」について
- 1.7 「作業には~個別的な目的や価値が含まれる」について
- 1.8 「作業に焦点を当てた実践には~手段としての作業の利用と、~目的としての作業の利用、~環境への働きかけが含まれる」について
- 2 今回の定義改定についての反応をtwitterで調べてみた
- 3 まとめ
今回の作業療法の定義改定について
今回の定義改定については、2018年5月の日本作業療法士協会総会で改定案が可決されました。
この経緯としては、“作業療法”の職能が非常に多様化していること、現行の定義ではその多様化を十分に表現できなかったこと…ということで改定に至ったようです。
今までの定義としては…
…でした。
それが今回の改定後の定義では、
…となりました。
また、この改定後の定義には以下の注釈が設けられています。
- 作業療法は「人は作業を通して健康や幸福になる」という基本理念と学術的根拠に基づいて行われる。
- 作業療法の対象となる人々とは、身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測される人や集団を指す。
- 作業には、日常生活活動、家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれる。
- 作業には、人々ができるようになりたいこと、できる必要があること、できることが期待されていることなど、個別的な目的や価値が含まれる。
- 作業に焦点を当てた実践には、心身機能の回復、維持、あるいは低下を予防する手段としての作業の利用と、その作業自体を練習し、できるようにしていくという目的としての作業の利用、およびこれらを達成するための環境への働きかけが含まれる。
では、この定義改定と注釈についてちょっと考えてみます。
「医療,保健,福祉,教育,職業などの領域で行われる」について
改定後の定義内のこの部分は“作業療法の対象”について触れていることになります。
以前までは、作業療法の対象について“身体又は精神に障害のある者,またはそれが予測される者”という表現でした。
となると今回の改定後のこの文言から、作業療法の対象が身体・精神障害といった医療、福祉的な範疇には納まらなくなった…と解釈できます(もちろん診療報酬等の対象うんぬんとは別にの意味です)。
医療、保健、福祉…という従来の対象範囲以外にも教育、職業とより具体的に示すようになったことからもその意味が読み取れるのかな?なんて思います。
「作業に焦点を当てた治療,指導,援助である」について
様々な作業療法士の方とお話しても、「OTのPT化」が問題視されています。
作業療法士のアイデンティティでもある“作業”という部分を重要視せず、機能面での評価、徒手的な治療介入のみで終結してしまうリハビリテーション…。
これでは提供できることが限られてしまいます。
もっとクライアントの“(大枠での)作業”に注目し、介入手段としても作業を用いるようにすることが、今回の定義改定でも強く謳われているのでしょうね!
「作業とは,対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」について
作業療法における“作業”の定義にもなるこの部分ですが、あくまでクライアントが望むもの、必要とするもの、価値が高いものを作業療法における“作業”と捉えていることがわかります。
これは、よりクライアント中心の作業療法の必要性が求められてきていると解釈できます。
なんのアセスメントもせず、クライアント自身が「なんでこの作業が必要なんだと?」と疑問符をつけたままの作業療法では全く持って意味をなさないってことになります!
「“人は作業を通して健康や幸福になる”という基本理念と学術的根拠に基づく」について
これは従来の作業療法の定義であり、根幹でもある部分ですね!
この理念については『自分の臨床に迷ったら、先人・偉人による名言から振り返ったらいいと思うんよ。』でも触れています。
「対象となる人々とは、身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測される人や集団」について
前述したことと重複しますが、“環境への不適応”と“日々の作業に困難が生じている”という部分が非常に特徴的かと。
これって言いかえれば「○○しにくい状態」と捉えられます。
仕事がしにくい…、学校に行きにくい…といった特に医療的な“障害”を持たなくても感じるような“日常生活上の心のしこり”のようなものも作業療法による解決対象とすることができるかもしれません。
「作業には~人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれる」について
作業を生活行為という視点で捉え、それを構成するのが心身の“活動”という点が非常に理解しやすいかなと。
あくまで“機能”ではないってところもポイントかと!!
重要視するのは、クライアントの生活行為という作業そのものであり、さらにそれを阻害する“活動”であって、“機能”で終わってはいけない…という解釈ができます。
また、作業は、クライアントが望む“作業”でもあり、作業療法士が介入手段として利用する“作業”でもあると思います。
「作業には~個別的な目的や価値が含まれる」について
“個別的な”という点からも非常に多様性があるということを前提としています。
クライアント中心の作業療法を考えるにあたっても、この多様性に富んだ作業についてどう対応するかは課題なのかと思っています。
「作業に焦点を当てた実践には~手段としての作業の利用と、~目的としての作業の利用、~環境への働きかけが含まれる」について
この部分では、作業療法士が“作業”をどのように扱うか?について触れています。
- “手段としての作業”はクライアントの心身の回復、維持、低下予防、そして行動変容を促すため
- “目的としての作業”はクライアントにとって価値基準が高い生活行為の実現のため
- “環境への働きかけ”は代償的アプローチの必要性について
…ということになります。
今回の定義改定についての反応をtwitterで調べてみた
Twitterでの反応としてはこんな感じ!
一部をご紹介!
33年ぶりに新しい定義ができたそうなんです!!
で、下手したら33年前の定義ができる前から作業療法を受けているようなお得意様たちに、新しい定義をお伝えせずに、OTを提供していいものか?いや、知らせよーぜ!!
ってことで。本日の午後の全体ミーティングで題材にしてみました。#作業療法 pic.twitter.com/5mZhy9erRp
— すねや (@strongarrow_) 2018年6月4日
らいすたや新しい作業療法の定義を見て思ったのだけど、作業療法って医療の範囲を超えてないかしら。そもそも医療の定義って何ぞや(・ω・)特にwell-beingって言葉とかすごい幅広い意味に取れる印象。誰か定義してないかな。#らいすた
— Kanas@勉強垢 (@Kanas1113) 2018年6月5日
北海道から神戸に帰ってきて伝達資料や研究についてのご意見を整理中。作業療法の定義について再考すると、本当に多くの領域にOTが活躍できるチャンスがある反面、その定義を個人がどう捉え、どのような実践をしていけるかで、この定義を強みとして掲げていけるかが決まりそう。真理を忘れないように。 pic.twitter.com/ZYsGjbrbcM
— sakimoto. (@fumi__o) 2018年6月18日
まとめ
今回の作業療法の定義を少し自分なりに解釈をしてみました。
多少希望的観測も含んでいますが(笑)、この改定で作業療法士が活躍できる領域が広がり、もっと社会全体が“作業療法”を必要とし、身近に感じられるようになればいいですね!