障害を持つ方の就労支援、職場復帰や職場適応のための評価、訓練ツールとして“ワークサンプル幕張版(MWS)”というものがあります。
正直、障害者職業センターと関わるまでこのツールの存在を知らなかったのですが、知れば知るほど非常に就労支援に関わる作業療法士にとっては必要なツールだと思ったので今回まとめてみました!
目次
ワークサンプル幕張版(MWS)とは
MWSは“独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構”の障害者支援部門で開発された職場適応促進のためのワークサンプルの名称を指します。
MWSには職業特性の評価や作業体験に用いる“簡易版”と、作業遂行能力の向上を図る際に用いる“訓練版”があり、評価ツールとしてだけでなく、作業を行うための支援ツールとして使用することができます。
詳しくは後述しますが、MWSには13種類のワークサンプルがあり、各ワークサンプルとも、十分な課題分析に基づき難易度を設定しています。
そのため簡単なレベルから難しいレベルへ進めることができるように構成されています。
MWSの対象疾患
MWSが支援する障害の対象範囲は、身体障害知的障害限定されず発達障害、高次脳機能障害、精神障害、認知機能に障害を有する人たちに対しても適用できます。
MWSの構成について
MWSには職業特性の評価や作業体験に用いる“簡易版”と、作業遂行能力の向上を図る際に用いる“訓練版”があり、それぞれ“OA作業”、“事務作業”、“実務作業”の3つに大別された13種類のワークサンプルによって構成されています。
ワークサンプル名 | 内容 | |
---|---|---|
OA作業 | 数値入力 | 画面に表示された数値を表計算ワークシートに入力する |
文書入力 | 画面に入力された文章を枠内に入力する | |
コピー&ペースト | 画面に表示されたコピー元の数値や文章をコピー先の指定箇所にペーストする | |
検索修正 | 指示された内容にそってデータを検索・修正する | |
ファイル整理 | 画面に表示されたファイルを該当するフォルダに分類する | |
事務作業 | 数値チェック | 納品書にそって請求書の誤りをチェックし、訂正する。 |
物品請求書作成 | 指示された条件にそって物品請求書を作成する | |
作業日報集計 | 指示された日時・人に関する作業日報を集計する | |
ラベル作成 | ファイリング等に必要なラベルを作成する | |
実務作業 | ナプキン折り | 折り方ビデオを見た後、ナプキンを同じ形に折る |
ピッキング | 指示された条件にそって品物を揃える | |
重さ計測 | 指示された条件にそって秤で品物の重さを計量する | |
プラグ・タップ組立 | ドライバーを使い、プラグ、タップ等を組み立てる |
MWS(簡易版)の特徴
MWS(簡易版)は13種類のワークサンプルを、およそ半日~1日程度で一通り体験できるような課題量と内容になっています。
実施対象としては、
・職業適性に対する自己認識が未成熟なクライアント
また、簡易版を実施する目的としては、
・訓練を行う前段階の動機づけとして
MWS(訓練版)の特徴
MWS(訓練版)は、クライアントが学習できるための段階的な難易度のレベル設定と、反復訓練を行えるだけの十分な課題量が用意されている点が、簡易版と異なる点と言えます。
訓練版を実施する目的としては、
・作業やストレス、疲労に関するセルフマネージメントスキル確立のための評価と支援のため
・障害の自己受容の促進のため
これらの目的のために、クライアントの障害状況や職業志向性、従事することが想定される職務に応じて、前述した13種類のワークサンプルの中から選択的に用いることができます。
MWSの実施方法について
MWSの簡易版、訓練版それぞれの実施方法については以下のとおりになります。
MWS(簡易版)の実施方法について
MWS(簡易版)を使用して、職業適性の評価を行うことは、
・作業遂行上発生するエラーの傾向を分析し、障害の保管方法に関する手がかりを得る
簡易版実施のためには「ワークサンプル幕張版 実施マニュアル-簡易版-」に沿って、実施者がクライアントに対し作業処理の方法について教示しながら進めていくようにします。
また、簡易版の場合2~3名程度の小集団で実施することも可能になっています。
MWS(訓練版)の実施方法について
MWS(訓練版)を使用することで、“障害の保管方法”、“対処行動の習得”により作業遂行能力の向上を図るためには、通常は支援者が各ワークサンプルのワークサンプルの「ワークサンプル幕張版 実施マニュアル-訓練版-」に沿って、以下のような、“単一のケース(患者または利用者)を対象にした効果測定のための研究法”である“シングルケース研究法”の考え方に基づき訓練を進めていきます。
対象者が各ワークサンプル及び難易度レベルごとに、一般的な口頭教示の下で補完手段を用いず、自律的に作業遂行できる能力範囲を測定する。
②訓練期(トレーニング期:TR期)
一般的な口頭教示だけでは自律的な作業遂行が困難となった時点で、支援者から提示された補完手段や解説的教示等の助力の下、各ワークサンプル及び直美のレベル毎に訓練を実施する。
③再評価期(プロープ期:PR期)
トレーニング期で行われた訓練効果測定の実施。
プロープ期において誤答を頻発したり作業手順の不安定性が認められた場合には、再度トレーニングを実施し安定した結果が得られるまで訓練を反復する。
まとめ
“作業”を訓練手段として使用する作業療法士にとって、クライアントの職場適応促進に特化したこのMWSは非常に評価分析ツールとしても、訓練ツールとしても有用なものだと思います。
ただ、実際多くの作業療法士が所属している病院や医療機関ではあまり使われていないというのも事実かと。
実際使用している現場は、障害者職業センターが主な印象を受けます。
各医療機関がこのMWSの設備を揃える…のは難しいにしても、MWSを構成するワークサンプルの種類や方法などを知っておくことで、就労支援が必要なクライアントを障害者職業センターにつなげる前の評価を行うことができ、作業療法士によるクライアントの適切な医療情報を提供することができるのかな、と思います。