介護と聞くと一般的には少し暗いイメージを持ってしまいがちです。
しかし、暗くなりがちな介護の世界に“お笑い”というエンターテインメントで改革をしようとしている方々がいらっしゃいます。
そんな事例を紹介します。
目次
お笑い×介護×リハビリの事例
まず、実際に“笑い”を介護の現場に取り入れた事例についてですが今回は、
- レギュラー(お笑い芸人)
- 日本介護エンターテインメント協会
…の2つの事例から考えてみます。
レギュラー(お笑い芸人)
10年以上前に、テレビ番組『エンタの神様』などでブレイクした“レギュラー”というコンビ名のお笑い芸人がいらっしゃいます。
日常のあるあるネタを、独特のリズムに合わせて披露する「あるある探検隊」のネタが有名ですが、実は2014年にコンビで介護職員初任者研修の資格を取得し、介護業界を盛り上げる活動にシフトしたようです。
テレビから介護の現場へ舞台をチェンジしたきっかけ
レギュラーの2人へのインタビュー記事などを読むと、この介護の現場でのお笑い活動のきっかけとしては、
- 祖母の認知症
- 高齢者施設への慰問ボランティア
- 宮古島での1年間の暮らし
…の3つがあげられるようです。
祖母の認知症
レギュラーがまだブレイクしている時期、“ボケ”担当で坊主頭の松本さんの実のおばあさんが骨折による認知症になったことで、介護が必要になりました。
続けるようにお父さんががんになり、その結果2人の介護のために松本さんのお母さんは仕事を辞めて介護に専念されたそうです。
ちょうどブレイクしている時でもあったため、なかなか実家には帰れずお母さんに介護をまかせっきりにしていたことがずっと心に引っかかっていたようです。
そういった経験が1つのきっかけになったようです。
高齢者施設への慰問ボランティア
2つ目のきっかけとしては、お笑い芸人の先輩(次長課長の河本淳一さん)といっしょに岡山県の施設を慰問するボランティアに参加したことです。
その際、施設でブレイクしていた「あるある探検隊」のネタを披露したところ、施設の入所者の方々が手拍子をしながら非常に喜んでくれたそうです。
「このネタに手の運動を組み合わせたらいいのでは?」とアイディアを思いつき、本格的に介護業界へ興味を持ち勉強を始めたとのこと。
宮古島での1年間の暮らし
3つ目のきっかけとは、番組の企画(紳助社長のプロデュース大作戦!)で、2010年3月から2011年3月の期間に宮古島に在住していたこと。
元々物腰の柔らかいレギュラーのお二人は宮古島での生活もすぐに慣れ、地元の方とも打ち解けていたそうです。
この宮古島に在住中も施設でネタの披露をしていたようです。
日本介護エンターテインメント協会
作業療法士であり、フリーのお笑い芸人でもある“石田竜生さん”は、現在『日本介護エンターテインメント協会』を設立し、「介護エンターテイナー(R)」としても活躍されています。
小さいころからお笑いが好きで作業療法士になり施設で働き始めてもその夢を忘れきれず。
1年の勤務を経て大阪のお笑い芸人養成所であるNSCへ入学し、本格的にお笑い芸人の道を目指したそうです。
きっかけ
NSCを卒業した後はアマチュアの芸人として劇場に出演したり、M-1グランプリ、R-1グランプリといったオーディションに出場しながら、デイケアで作業療法士としてパート勤務をしていたそうです。
このお笑い芸人と作業療法士の二足のわらじの生活は5年続いたそうですが、やはり先ほどのレギュラーのお二人同様、介護施設でのボランティアがきっかけで「お笑い×リハビリ」の可能性に気づいたそうです。
その後、SNSを利用し150箇所以上の介護施設をボランティアとして訪問し、自身の活動を本格的なものにしていったようです。
「お笑い×介護・リハビリ」の2つの事例からみえること
レギュラーのお二人の場合も、石田さんの場合も、どちらも「心地よい雰囲気作り」を非常に重要視していることがわかります。
どちらも、“レクリエーション”を使った介入ですが、この「心地よい雰囲気作り」って、どんな領域の作業療法士にも必要な要素だと思います。
- 黙ったまま黙々と徒手療法を受けているケース
- 「○○してください!」「××はしちゃだめ!」と「指導」という名の叱責を受けているケース
- 「デイケア・デイサービスはこれが普通」という理由で、参加したくもない風船バレーに参加させられているケース
介護やリハビリの現場では、よく見られる場面ですが、レギュラーのお二人や石田さんの活動、理念、考えにふれると、これらの現実に対して非常に疑問符をつけたくなります。
もちろん、これは作業療法士に限ったことではありません。
医師でも看護師でも、理学療法士でも介護福祉士でも、、どの医療、介護に関わっている職種の人に共通することだと思います。
年を取ると、笑う回数は減るという事実
福島県立医科大学疫学講座の“大平哲也教授”によると、
ヒトは年とともに「笑い方」が変化するだけでなく、1日当たりの笑う頻度が激減する
と述べています。
一日の笑う回数についての調査結果ですが、
- 小学校:平均300回
- 20歳代:平均20回
- 70歳代:平均2回
笑うということのメリット
笑うことは健康にとっても非常にメリットがあるんです。
- 免疫力の向上
- 脳機能の活性化
- 血行の促進
- 自律神経の調整
- 筋力の向上
- 幸福感と鎮痛効果
免疫力の向上
笑うことで、免疫力をコントロールしている“間脳”に興奮が伝達され、その結果神経ペプチドが生成されます。
この神経ペプチドは血液やリンパを介して体中を巡り、ナチュラルキラー細胞の表面に付着することで活性化させ、その結果免疫力の向上につながります。
脳機能の活性化
笑うことで脳の海馬の容量が増え、記憶力の向上につながるとの報告があります。
加えて、笑うことでアルファ派が増え脳がリラックスすること、大脳新皮質への血液量が増加することなど非常に脳の活性化に役立ちます。
血行の促進
お腹を抱えて笑った経験がある方はイメージつくかと思いますが、おもいっきり笑ったときは深呼吸や腹式呼吸と似たような状態になるようです。
その結果体内に酸素が多く取り込まれ、血行の促進につながります。
自律神経の調整
自律神経の働きにおいて、笑うことは副交感神経が優位の状態です。
これは眠っているとき、リラックスしているときと同様です。
基本的に起きているときは交感神経が優位の状態ですから、「リラックスしてください」と言ってもなかなか難しい場合があります。
それよりは思いっきり笑うことで、副交感神経を優位にし、交感神経とのバランスを整えることができます。
筋力の向上
笑いすぎて息がハアハアとなり、お腹が痛い…なんて経験、あるかと思います。
それだけ笑うことで、普段意識してなかなか使わない腹筋や横隔膜、肋間筋などへ負荷をかけることができます。
幸福感と鎮痛効果
笑うことは脳内伝達物質の一つである“エンドルフィン”の分泌を促進します。
このエンドルフィンは幸福感をもたらすだけでなく、モルヒネの数倍の鎮痛効果もあり、痛みの軽減にも作用します。
慢性時痛で苦しむ高齢者には、笑うという作業活動を提供してみるのも一つかもしれません。
作業療法士が臨床で笑いを取り入れるためには?
個人的に作業療法士は「お笑い」の要素を持っていて損はないと思います。
提供する作業活動はクライアントにとって“意味があるもの”でないといけませんが、同時に“楽しいもの”でないと継続できません。
その為には自分自身が常に「楽しいもの」へのアンテナを張っておくべきかもしれません。
文献を読むのも重要です。
論文を書くのも、研修に参加するのも重要です。
でもそれらを臨床に役立たせるには、自分自身が「楽しい」と思えるようなセンスを磨くこと。
これが結果として、クライアントへ還元することができるのではないでしょうか?
まとめ
今回は「お笑い×介護・リハビリ」をテーマに実際に活躍されている2つの事例を基礎に、作業療法士の臨床力、キャリアアップまで拡大して考えてみました。
そういった意味でも、作業療法士は「常に勉強」が必要なんでしょうね!