作業療法士が“手洗い動作”という活動にフォーカスを当てて訓練として介入する際に、“手洗い動作の獲得”が主な目的になるかと思います。
しかし、手洗い動作をやや拡大解釈し、“手浴”として扱うと、非常に治療的訓練として有効になります。
今回はこの手洗い動作の訓練方法について、自立度の向上と手浴によって期待できる効果という2方向で考えてみます。
目次
手洗い動作の自立度向上のための訓練
まず、手洗い動作の自立度向上のためのADL訓練としての作業療法プログラムについてですが、
- 手洗い動作の分析的評価
- 手洗い動作の反復訓練
- 自助具や手順の検討
- 介助方法の検討
…が項目としてあげられます。
①手洗い動作の分析的評価
クライアントの手洗い動作を工程、動作分析的に評価することで、どの工程や動作要素に問題を抱えているかを抽出することができます。
もちろん身体機能面だけではなく、精神機能、高次脳機能に対しても分析的な評価が必要となります。
そのことからもまずはクライアントの手洗い動作場面を観察し、トップダウンアプローチを前提としたプログラムの展開が必要になります。
②手洗い動作の反復訓練
クライアントの手洗い動作を分析的に評価した上で、その問題となる工程や動作に対して反復訓練を行います。
ただし、闇雲に反復して訓練を行うのではなく、提供する介助量の程度を工夫すること、環境設定なども行いながら介入します。
また、必要時は関節可動域訓練や筋力強化訓練といった機能向上のためのボトムアップアプローチも行うことも求められます。
③自助具や手順の検討
手洗い動作の自立のために自助具や手順の再検討も必要な場合があります。
「必ず洗面所で蛇口からの流水で行わなければならない!」と盲目的になるのではなく、手洗い動作の目的である“清潔の保持”と“感染予防”を達成できる代替手段も検討する必要があります。
例としてはアルコールティッシュでふき取る…という方法でも高い効果が期待できます。
④介助方法の検討
本人の能力向上のための直接的アプローチでも、自助具等の代替的アプローチを行っても、クライアントの障害や状態によっては手洗い動作の自立度が向上しないケースもあり得ます。
その際は家族や介護者に対しての介助方法の検討を行うことも作業療法士にとって必要な訓練プログラムの一つになります。
重要なのは、できる限り必要最低限な介助量にすること、本人ができる工程は促すようにすることなど、あくまで全介助に近づかないような心がけが必要です。
手洗い動作を訓練的な活動として用いることについて
手洗い動作そのものを訓練的な活動として用いようとすること…こういう発想は作業療法士にとって必要な視点であり、他の医療職や介護職との差別化を測れる技術だとも思います。
便宜上、手洗い動作ではなくここでは“手浴”として表現し、その期待できる効果を考えてみます。
手浴とは
手浴とは、入浴が困難な方や患者さんなどに対して、手(主に手関節より遠位部)までをお湯につけ温める部分浴の一つになります。
手浴によって期待できる訓練効果
では、手浴によって期待できる効果とはどのようなものでしょうか?
結論から言えば、以下のようなものがあげられます。
- 抹消循環の改善
- 関節拘縮の改善や増悪予防
- 感覚障害の改善
- リラックス、鎮静効果
- 清潔の保持
抹消循環の改善
適度な温度のお湯に手を浸けることで、末梢循環の改善効果が期待できます。
自律神経障害や筋力低下によって循環障害を呈しているクライアントにとっては非常に高い効果が期待できます。
関節拘縮の改善や増悪予防
関節拘縮の原因は主に関節包や靭帯、筋や筋膜、皮下組織、皮膚などの線維化によって軟部組織が硬直し伸展性が低下したことによるものとされています。
この拘縮の改善のためには、硬直した組織を温めることがひとつとされています。
感覚障害の改善
その疾患や障害によって感覚障害の原因も異なりますが、手浴は感覚障害(特に中枢性由来のもの)に対して一定の効果が期待できる報告、先行研究は多くみられます。
改善する理由としては皮膚や筋の柔軟性の向上による感覚入力感度の向上から、中枢への上行性の感覚刺激による変化など様々でしょうが、なにより簡単にできること、大きなリスクがないことからも感覚障害に対してのリハビリテーション訓練手段としては非常に有効な方法と言えます。
リラックス、鎮静効果
手浴によって血管が拡張し血液循環が改善すると、副交感神経優位の状態にし、結果として高いリラクゼーション効果を得ることが期待できます。
そのため不眠の改善や気分転換など生理的な緊張を改善し、生活の質を向上させることができます。
清潔の保持
清潔の保持を目的とした手洗い動作のみでは改善しにくい、爪と指先の間の汚れを洗浄することができます。
まとめ
手洗い動作という日常生活のなかの習慣として行っている活動に対して、作業療法士は自立度の向上と、訓練的活動としての応用の2方向での関わりができると思います。
同じ“手洗い”という動作に対しても、やや俯瞰的な視点で捉えなおすことで有効な作業療法プログラムに応用することができるのではないでしょうか?
作業療法士は語りたい!
参考論文
・脳血管障害患者における手浴
・手を温めることによるリラクセーション効果の研究
・部分浴である足浴および手浴の体温応答