高次脳機能障害のクライアントに対する作業療法プログラムの立案は、その障害像の複雑さからも非常に難しくいまだに試行錯誤で行っている印象を受けます。
ましてやクライアントによっては、新しい課題やペーパーテストに対して拒否的な反応を示す場合もあるため、受容的かつ継続的に行えるプログラム立案で苦労する作業療法士も多いかと思います。
今回、整容動作の一つである“手洗い動作”や“手浴”という日常生活の習慣的な活動で拒否的な反応も示されにくい活動によって、高次脳機能障害に対して期待できる治療的効果について考えてみます。

高次脳機能障害へ手洗いや手浴による期待できる8つの効果について

高次脳機能障害のクライアントに対して手洗いや手浴を行った場合、期待できる効果としては以下の8つがあげられます。

  • 清潔保持
  • 循環促進
  • 感覚障害の改善
  • 身体失認の改善
  • 半側空間無視の改善
  • セルフケア教育
  • 意識の向上
  • 他者との交流機会の創出

清潔保持

本来の手洗い・手浴の目的でもある清潔保持としての効果は高次脳機能障害のクライアントに対しても同様に期待できると考えられます。
ちなみに作業療法士には、この手洗い動作を促した際にその工程や動作要素でなにか問題はないか、さらにきちんと清潔保持された状態かどうか、分析的に観察する視点が求められます。

循環促進

脳卒中への手洗い動作の効果についての記事でも触れましたが、中枢性疾患の場合、筋緊張の異常や自律神経障害による循環障害を起こしている場合が多くあります。
高次脳機能障害といっても、脳卒中や頭部外傷といった中枢性疾患由来のものなので、程度の差はあれど循環障害を起こしている可能性は高いと考えられます。
手洗いや手浴によって血管の拡張を図ることで循環が促進され循環障害の改善が期待できます。

感覚障害の改善

高次脳機能障害の種類や責任病巣にもよりますが、高次脳機能障害を呈しているクライアントはなにかしら感覚障害を抱えている場合が多くある印象を受けます。
手洗い動作や手浴といった多くの種類の感覚入力機会に富んだ活動を提供することで、感覚入力を促し感覚障害の改善が期待できます。

身体失認の改善

自分の体の部分への認知が困難になる“身体失認”に対して、手洗い動作や手浴は非常に高い効果が期待できる活動といえます。
ポイントとしては作業療法士はただ黙って黙々とクライアントの手を洗うのではなく、「お湯をかけますよ」「いいお湯加減ですか?」「次は石鹸で洗いますね」…といった工程や状況をきちんとクライアントに見せ(視覚的フィードバック)、説明(聴覚的フィードバック)することがより高い効果をう流すために必要と考えます。
加えて少しずつクライアント自身が自分の身体(この場合は手)の状況を説明するように促すとなお効果的だと考えられます。

半側空間無視の改善

半側空間無視の症状が著明なクライアントに対しても手洗いや手浴は効果的だと考えられます。
この場合のポイントとしては、作業療法士が主での手洗いや手浴ではなく、あくまでもクライアント自身に左側への探索的な活動を促すような工夫をした上での手洗い、手浴を行うことがあげられます。

セルフケア教育

高次脳機能障害のクライアントはその障害からどうしてもセルフケアの実施と継続が困難になる場合があります。
手洗い動作という比較的安全で簡単に習慣的に行えるセルフケアを取っ掛かりとしてセルフケア教育をしていくことも期待できます。

意識の向上

手洗いや手浴に限ったことではありませんが、清潔を保つことや気分転換、リラクゼーション効果を得ることで様々なことへの意識(この場合“意欲”と同義)が向上することが期待できます。

他者との交流機会の創出

高次脳機能障害のクライアントは外出機会や他者との交流機会が減少し、閉じこもりになるケースが多いため、他者交流、外出機会の創出につなげるような工夫が必要と考えます。

まとめ

手洗いや手浴はリラクゼーション効果が高いことからも、高次脳機能障害のクライアントにとっても受容的な活動と言えます。
さらに習慣的に、簡易的に行えることからも継続性が高い活動と言えます。
高次脳機能障害への介入は多少なりとも長期間の時間を必要とするため、手洗い動作や手浴といった継続性が高い活動を作業療法プログラムの一つとして提供することは重要かと思います。

参考文献・論文

・小山珠美,所和彦監修(2005):脳血管障害による高次脳機能障害ナーシングガイド(改訂版),159-160,日総研,東京.
・脳血管障害患者における手浴
・片麻痺患者への手浴の有効性

作業療法士は語りたい!

高次脳機能障害は中枢性の障害だからこそ、快刺激を軸にした活動提供が必要だと思うんだ。
少しでも「いやだな」と思ったり感じてしまう作業や活動は治療効果としても低いでしょうからね!