心理学者である“M.チクセントミハイ”が提唱する“フロー”という言葉があります。
これは“フロー体験”といった言葉で表現されることが多いのですが、作業療法士が臨床で利用する“作業”を考えるにあたって非常に重要な体験を指していると思います。
そこで今回はこの“フロー体験と構成要素”について解説します。

フロー体験とは?

フロー体験についてですが、次のように説明されています。

そのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態

また、

チャレンジとスキルが釣り合う状況でものごとに没入する体験

 
…という説明もされています。

提唱者は“M.チクセントミハイ”


このフロー体験とは、20世紀を代表とする心理学者の一人である“M.チクセントミハイ”によって提唱され、専心や専念という没入経験に連なる概念の1つとされています。
彼によれば、このフロー体験は喜びや創造、生活にわくわくする楽しみをもたらし、人生を充実させるものであるとされています。

フロー体験の特徴

フロー体験の主な特徴ですが、

自己目的的であること

…とされています。
つまり、人はもともとフロー自体を求めるのであって、附随的な報酬のためではないということになります。

フロー体験はどんな状況でも起こり得る

このフロー体験ですが、実は特別限られた楽しいような環境や状況下で起こることではないようです。
戦場や工場での流れ作業、強制収容所といった決して“楽しい”とは思えないような状況での活動でも、フロー体験を経験することができるといわれています。

フロー体験=最適経験

フロー体験と同様の意味を持つ言葉で“最適経験”というものがあります。

この最適経験とは、自分の行為を統制し、自分自身の運命をしはいしているという感じを経験するときに得られます。
その時に、気分の高揚、長いこと待ち望んでいた深い楽しさの感覚が生じ、その感覚により、生活のあるべき姿を示す道しるべとして記憶に残るような経験になります。

フロー体験の構成要素について

では、そんなフロー体験ですがどのような要素で構成されているのでしょうか?
チクセントミハイによると、次の8つを列挙しています。

  1. 明確な目的
  2. 専念と集中、注意力の限定された分野への高度な集中
  3. 自己に対する意識の感覚の低下、活動と意識の融合
  4. 時間感覚のゆがみ
  5. 直接的で即座な反応
  6. 能力の水準と難易度とのバランス
  7. 状況や活動を自分で制御している感覚
  8. 活動に本質的な価値がある、だから活動が苦にならない

以下に詳しく解説します。

①明確な目的

フロー体験は、その活動に明確な目的があり、かつ達成できる見通しのある課題に取り組んでいるときに生じます。

②専念と集中、注意力の限定された分野への高度な集中

フロー体験は、自分のしていることに深く集中できている状況で経験することができます。

③自己に対する意識の感覚の低下、活動と意識の融合

フロー体験の時は、意識から日々の生活の気苦労や欲求不満を取り除く、深いけれども無理のない投入状態で行為していることになります。

④時間感覚のゆがみ

フロー体験を経験している最中は、時間経過の感覚が変わります。
数時間は数分のうちに、数品は数時間になるように感じられることがあります。

⑤直接的で即座な反応

フロー体験は、その活動の過程における成功と失敗が明確であり、直接的なフィードバックがあります。
また、行動が必要に応じて調節されることもあります。

⑥能力の水準と難易度とのバランス

フロー体験は、その活動が易しすぎず、かつ難しすぎない適度なレベルの場合に生じます。
つまり、

⑦状況や活動を自分で制御している感覚

フロー体験では自分の行為を統制している感覚を伴います。

⑧活動に本質的な価値がある、だから活動が苦にならない

上記のような“自己目的的である”ということになります。
お金や他人からの評価といったその行為、活動に付随するものを求める手段化してはフロー体験にはつながらないということです。

もちろんフロー体験を構成している要素であるだけで、8つ全てがそろうことが条件ではないようだね!
この8つの要素それぞれの組み合わせが、深い楽しみの感覚を生み、結果として“やりがい”となるのでしょうね!

フロー体験の隣接分野について

チクセントミハイによって提唱されたフロー体験ですが、実は同じ現象でも各分野によって少し言い方、呼び方が異なるようです。
例としてあげると…

  • Being at one with things(ビーイング・アット・ワン・ウィズ・シングス:物と一体化する)
  • ゾーン

…などがあげられます。

フロー体験と“禅”

Appleの創業者である“スティーブ・ジョブズ”も実践していたとされ注目を浴びた“禅”ですが、これは仏教や道教の教えに従う人の精神開発の技術とされています。
禅を行っている最中は、一種のフロー体験に近い状態下にあるとされています。

Being at one with things(ビーイング・アット・ワン・ウィズ・シングス)

これは“物と一体化する”という意味ですが、無我の境地に達することで起こる心理状態のことを指す慣用句として使われます。

ゾーン

これはスポーツ選手が、極度の集中状態にあり、他の思考や感情を忘れてしまうほどその競技に没頭しているような状態をいい、よく「ゾーンに入った」という表現をされます。
テニス漫画“ベイビーステップ”やバスケ漫画“黒子のバスケ”の作中でも使われているので、知っている人も多いかもしれません。
このゾーンもフロー体験と同じ意味になります。

作業療法士によるフロー体験の利用方法

さて、このフロー体験ですが、“作業”を利用してクライアントの心身機能を高め、生活障害を取り除き、生活の質を高める作業療法士にとって、非常に重要なことと言えます。
治療手段としての“作業”だというのなら、クライアントに提供する作業活動は、クライアント自身がこのフロー体験を経験しうるようなものに設定して提供する必要があるのだと思います。
決してセラピスト側の押しつけになるような作業活動ではいけないということです。

まとめ

作業をすること自体が、生活や人生を充実させるとするならば、その背景にはこの“フロー体験”が必ずあるのだと思います。
クライアントへ提供する作業活動も、フロー体験の8つの構成要素をヒントに選択していくことも重要なのでしょうね!

作業療法士は語りたい!

たしかにクライアント提供するアクティビティや作業活動の選択基準って曖昧ですものね。
その作業を遂行すること自体が、本人の心身へ良い影響を及ぼすとするならば、
いかに提供する作業活動によってフロー体験を引き出していくか?っていう課題に移行すると思うんだよね!
フロー体験の8つの要素は、提供する作業選択の基準にも応用できるということですね!