ADL

更衣動作へのリハビリテーション(作業療法) – 目的・特徴・意味・障害や問題点について

 

更衣動作はADLの1つであり、作業療法士によるリハビリテーションの対象としては代表的なもののひとつになります。
今回は更衣動作の目的や特徴、着替えることの意味、そして更衣動作に障害がある場合想定される生活上の問題点についてまとめてみました!

更衣動作とは?

“更衣動作”はADL動作の一つで、英語では“Dressing”と表記されます。
リハビリテーション…特に作業療法における“更衣動作”の定義についてですが、

適切な衣服を決定し、着衣、脱衣すること
…となります。

更衣動作の意味について

更衣動作の意味、意義についてですが、人間は社会の中で生きる時適当な衣服を身にまとうことを要求されます。
衣服そのものを考えた場合、そこに要求されるのは“機能性”、“装着性”、“外観”などがあげられますが、衣服を着ることの意義には大きく以下の2つのことが考えられます。

①身体保護として
②シンボリカルとして

①身体保護として

更衣動作の“身体保護”としての意味についてですが、身体の体温調整や外敵から身を守るため…とされています。

②シンボリカルとして

衣服はシンボリカルな機能として、着用する人の性別や身分、好みなどを表します。
つまり、衣服は個人の自己表現の手段から、特定の文化・社会への所属の手段、重要なコミュ二ケーション手段になっています。

更衣動作の目的について

そもそも更衣動作…つまり衣服を“着替える”という活動はどのような目的になるのでしょうか?

大きく分けると以下のような目的があげられます。

①体温調節のため
②生活習慣、生活リズムの確立のため
③身だしなみを整えるという社会的行為
④自己表現の手段

以下に分かりやすくするために、マズローの五段階欲求に照らし合わせて整理してみます。

①体温調節のため(生理的欲求)

衣服を着替えるという更衣動作の目的の一つには、生命維持のための体温調節という生理的欲求に対しての目的がまずあげられます。
季節や一日の時間によって変化する気温に対して適切に対処するため、更衣動作によって暑い、寒いという状態に適宜対応する必要があります。
マズローの五段階欲求でいう、生理的欲求のカテゴリー内の″恒常性維持”に当てはまります。

②生活習慣、生活リズムの確立のため(安全の欲求)

朝起きたら寝間着から普段着に着替えるといったことは、一日の生活習慣、生活リズムを整えるためにも必要な活動と言えます。
一日中同じ衣服で過ごすと、生活環境が単調となり、活動時間なのか、食事時間なのか、休息時間なのか判別がつかなくなり、精神活動の低下に繋がりやすくなります。

特に病院で入院をしている、施設で長く入所しているといった状況下のクライアントの場合、一日のリズムつかみにくくなってしまい、自律神経の不調を引き起こすことになります。
これは見当識障害を起こしやすい認知症や高齢の方はもちろん、高次脳機能障害の方でも顕著にみられる傾向があります。

精神面での障害を有するクライアントには特に、生活のメリハリをつけるということは、どんな環境においても最低限必要なことと言えます。

マズローの五段階欲求でいうと…安全の欲求内にある“健康維持”を満たす目的に近いのかなと思います。

③身だしなみを整えるという社会的行為のため(社会的欲求)

自宅内で着ている…いわゆる部屋着の状態と、外出や来客対応など他人と接する機会がある場合では、着る装いも変わってきます。
これは更衣動作を社会的な行為として捉えた場合に考えられる理由と言えます。

人は社会的な動物である点も考えると、この更衣動作を社会的行為として捉える視点は、作業療法士として忘れてはいけない視点だと思います。

マズローの五段階欲求でいうと…“社会的欲求”を満たす目的になるのでしょうね!

④自己表現の手段(尊敬、評価、自己実現の欲求)

上述した①~③は更衣動作を義務的な観点からみた目的ですが、この“自己表現の手段”…マズローの五段階欲求でいうと“尊敬、評価の欲求”や“自己実現の欲求”という点で更衣動作を捉えることも必要です。

つまり、生活の中で自分の好みや生活にあった服装を選択でき、楽しみを感じることが目的になります。

この場合は更衣動作を“ファッション”という別の切り口で考える必要があると思います。

とはいっても、この段階の目的になると、①~③の目的よりももっと上位の精神的欲求に対しての目的に位置するので、非常に個別性に富んでいる印象を受けます。

作業療法士が更衣動作へ介入することって?

つまり、作業療法士が生活訓練・リハビリテーションとして更衣動作へアプローチするということは、

・クライアントの身体的、精神的な健康生活の維持のため
・多種多様な選択肢を個人が持つことの促進
・社会生活上の行動範囲を拡大しQOL向上の促進
…といった要素を支援することにつながります。

“身体保護”としての機能だけではないので、きちんとTPOやクライアントの好みなどにも配慮する必要があるってことでしょうね!
着脱の容易なものからその人らしい服装へとバリエーションを拡大することまで考える事が“更衣動作への支援”なんだろうね!

更衣動作障害がもたらす問題点

では、ADLの一つでもある“更衣動作”が障害されると、生活においてどのように問題化するのでしょうか?
想定されるものとしては、

①二次的な疾病の発症による健康生活の維持困難
②生活リズムの乱れによる自律神経の不調
③認知機能の低下
④社会生活の狭小化

①二次的な疾病の発症による健康生活の維持困難

前述したように、更衣動作に障害がおきると、衣服による体温調整が行いにくくなるため、気温変化に対応できなくなります。
その結果、風邪や肺炎といった二次的な疾病を引き起こす可能性が高くなります。
また、衛生面での問題にも発展することがあります。

②生活リズムの乱れによる自律神経の不調

一日同じ衣服でいることは、生活のメリハリがつくにくくなります。
その結果生活リズムの乱れが起こり、結果として自律神経の不調をきたす可能性が高くなります。
憂うつな気分や慢性的な頭痛、倦怠感、便秘といった自律神経に関与する問題が顕在化してくる原因にもなり得ます。

③認知機能の低下

特に高齢者においては、能動的に着替えるという行為を行わないと、認知機能の低下を引き起こす可能性が高くなります。
また、前頭葉機能の低下と更衣動作は比較的関連性が高く、うつ病の初期症状に着替えるのが億劫になった…という症状がみられるのは、このためだと考えられます。

④社会生活の狭小化

同じ衣服で過ごすことは、前提としても結果としても、他者との交流の低下につながります。
また、衣服を着替えるという必要性を感じていたとしても、それがTPOに合ったものでないと、これも社会生活、対人関係に支障をきたす場合があります。
適切な時間、適切な場所で適切な衣服に着替えるという動作に障害があると、どうしても社会生活の狭小化を招いてしまいます。

まとめ

ADL動作のカテゴリー内に位置する“更衣動作”ですが、更衣動作はただ単に着替えられるor着替えられないといった問題ではなく、そのクライアントにとってどのような衣服に着替えることが必要か、その目的や必要性を考える事が必要です。
そのためにもマズロー五段階欲求で捉えなおすとその目的が段階的、階層的に見る事ができます。

目の前のクライアントに提供する“更衣動作”の作業療法プログラムは、いったいどの段階の欲求を満たすための目的なのかを把握することで、クライアント側と作業療法士側との目的の温度差が少なくなるのだと思います!

作業療法士は語りたい!

幅広い作業療法が扱う分野のなかでも、
“更衣動作”に特化したリハビリテーションの展開があっても面白いよね!
“ファッションリハビリテーション”とか、
“アパレルリハビリテーション”なんてカテゴリーがあったら、もっと作業療法士ができることが増えていく気がしますね!

“更衣動作”関連記事

更衣動作に必要な身体・精神機能について
更衣動作に関しての評価バッテリー、検査方法について
更衣動作に役立つ自助具・福祉用具10選
更衣動作に関連する衣服のパーツや部位の名前について
更衣動作の工程分析・動作分析について
更衣動作訓練の方法
脳卒中(脳出血・脳梗塞)への更衣動作リハビリテーション
高次脳機能障害への更衣動作リハビリテーション
認知症に対しての更衣をスムーズに促すための7つのコツ
パーキンソン病の更衣に対して行うべき14のコツ
慢性関節リウマチ(RA)のクライアントの更衣に対して行うべき8つのポイント
人工骨頭置換術の禁忌肢位と、更衣動作の際の注意点
脊髄損傷の更衣動作支援につながるポイント
うつ病と更衣(着替え)の関係性について?

 

おすすめ記事

職業リハビリテーションにおける“環境特性”を分析してみた! FIMのトイレ動作における項目や具体例、採点方法などについて 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診察時の項目と、CPAPのデータの見方について 作業療法のエビデンスを追求するなら、医工連携が重要だと思う。 ラジオ体操による4つのリハビリ効果がすごかった!

関連記事

Sponsored Link

OT愛東

臨床15年目の作業療法士。
作業療法士としてのキャリアと同時に、音楽関係、アパレル関係、ナイトビジネスなどの経験を経て現在ウェブ事業の展開も行っている。
現在は作業療法士のキャリアアップを目的としたウェブメディア『作業療法プレス』をはじめ、複数のブログメディアを運営。
また、自身の様々なキャリアから、改めて「働き方」を考え、支援するために“働きにくさをリハビリする”産業作業療法研究会を設立。
日本作業療法士協会会員・日本職業リハビリテーション学会員・両立支援コーディネーター

OT若菜

臨床3年目の新人作業療法士。
手先が器用なため、手工芸を用いたアクティビティでの介入が得意。
これといった趣味はなく休日は家でダラダラしている。
現在彼氏募集中。
PAGE TOP