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脳卒中(脳出血・脳梗塞)への更衣動作リハビリテーション – 作業療法における評価・訓練・指導について

 

脳卒中(脳出血・脳梗塞)による片麻痺のクライアントに対して、更衣動作をテーマに介入する際、ただ闇雲に反復訓練を行うだけ…では、リハビリテーションにおける非常に大きな機会損失と言えます。
では、どのようなポイントをおさえたらよいのでしょうか?
今回はこの脳卒中(脳出血・脳梗塞)への更衣動作の評価方法や訓練プログラム、そして指導方法についてまとめました!
なお、あくまで作業療法のひとつの例としてですのでご了承ください。

脳卒中の更衣動作に対しての評価について

脳卒中の片麻痺に対しての更衣動作の作業療法評価として、まずは

実際の更衣動作を行ってもらう
…ということから始まります。

脳卒中によって、その介助量に差はあっても更衣動作という複雑な身体機能、認知機能を要する活動に対しては大なり小なり困難さを有している場合があります。
実際に着替えする場面を観察し、その動作遂行そのものを評価することが、作業療法士として最初の評価手段と言えます。

そしてどの動作工程に問題があるのか、どの動作要素が更衣動作を困難にしているのかを抽出しさらに評価を進めていきます。

評価方法

更衣動作を評価するにあたって関連する評価方法については以下のとおりになります。

・FIM:“しているADL”状況把握
・BI:“できるADL”状況把握
・動作分析:動作工程、動作要素の問題抽出
・ブルンストロームステージ:麻痺の程度
・関節可動域評価(ROM-T):更衣動作に必要な姿勢、四肢の適合性
・筋力検査(MMT):把持能力・四肢のプレーシング
・上肢機能・巧緻機能検査:衣服の袖や裾に通す際の操作能力の有無
・感覚検査:固定性、操作性の能力把握
・姿勢評価:動的座位、立位姿勢の保持能力・姿勢変換の安定性
・HDS-R/MMSE:認知機能の評価

FIM

FIMは、クライアントの普段の“しているADL”状況を把握するために行います。
FIMの更衣動作(上半身下半身)を評価し、点数化することによって、クライアントの更衣に関する介助量について他部門や他部署との情報共有に役立たせることができます。

Barthel Index

BI(Barthel Index)は、クライアントの”できるADL”の状況を把握するために行います。
クライアントの現段階の能力で、どのくらい更衣動作が可能なのか?という視点で評価を行い、これも他部門や他部署との情報共有に役立たせることができます。

その病院や施設によってFIMかBIのどちらかのみADL評価として行っていることが多いと思いますが、それぞれの評価対象の違いも考慮すると、どちらも評価しておくことが望ましいと考えます。

動作分析

作業療法士として、クライアントの目的と介入手段との温度差を無くすためにも、基本的にはトップダウンアプローチを基本とするべきだと考えています。
そのことからも、まずは実際にクライアントに更衣動作を行ってもらい、動作分析をすることを前提にその後の評価や治療プログラムの立案を立てていくのがスムーズだと思います。
更衣動作の動作分析を行い、どの動作工程、動作要素に問題を抱えているのか把握することが、作業療法士としては必須になります。

・関連記事:更衣動作の工程分析・動作分析について

ブルンストロームステージ

更衣動作は“衣服に自身の身体を適合させる行為”になりますので、非常に随意的な運動を必要とします。
上肢、手指、下肢の麻痺の程度をブルンストロームステージによって客観的に評価しておくことが必要になります。

関節可動域評価(ROM-T)

スムーズな更衣動作を遂行するには、姿勢の保持と身体の随意運動が必要になってきます。
この2つはある程度の関節可動域を保障していることが前提となります。
また、客観的に関節可動域を評価しておくことで、後の代替訓練や代替手段の検討材料、訓練前後の比較検討に役立たせることができます。

筋力検査(MMT)

脳卒中による片麻痺のクライアントに対して行う筋力検査としては、主に非麻痺側の上下肢、および体幹に行います。
(麻痺側のブルンストロームステージがstageⅤ~Ⅵの場合は参考値程度に測定することもあります)
更衣動作を遂行するには、袖や襟を把持する場面や上下肢を袖や裾に通すといった動作が必要になります。
特に上下肢をプレーシングすることができるかどうかで、更衣動作の自立度は大きく変わってきます。

上肢機能・巧緻機能検査

上肢の麻痺の程度にもよりますが、少なくてもブルンストロームのstageⅣ以上のクライアントには、STEFMFTといった上肢機能検査、パーデュー・ペグボード・テストなどの巧緻機能検査によって評価する必要があります。
訓練前後の比較検討の参考にする目的もありますが、何より更衣動作において袖を通す、ボタンやファスナーを操作する…といった動作要素遂行のための参考にすることができます。

感覚検査

脳卒中片麻痺のクライアントで、感覚障害を呈している場合非常に更衣動作の遂行に難渋を示すケースが多くみられます。
更衣動作で、衣服の形状に身体を適合させるためには、衣服を身体部位に固定的に操作することが必要になります。
その際、適切に固定されているかどうかの理解は、クライアント自身の触覚や位置覚といった感覚機能によるフィードバックが優先的に求められます。
この感覚機能に障害があると、他の感覚(視覚etc)によって代償する方法や、動作手順や方法の変更、自助具の検討などの対応が求められますので、感覚・知覚検査はしっかりと行っておく必要があります。

また、着替え終わった後の“たごまり”や“しわ”といった仕上げの段階にも、感覚機能は必要とされます。

姿勢評価

脳卒中による片麻痺のクライアントは、姿勢変換、姿勢保持の能力が低下する場合があります。
更衣動作をスムーズに遂行するためには、適切な姿勢に変換すること、その姿勢を保持することが求められます。
さらに、静的な姿勢保持よりも、上下肢や体幹の操作を伴うため動的な姿勢保持能力が求められます。
臥位からの起き上がり、座位姿勢、立ち上がりや立位姿勢の評価を行うことで、安全かつ円滑に更衣動作が行えるかどうか検討することができます。
評価バッテリーとしては、バランス機能を評価するBerg Balance Scale(BBS)などがあげられます。

認知機能

高次脳機能障害といった脳卒中を起因とする障害の他に、認知症の有無を検査するHDS-RMMSEといった認知機能検査も実施しておく必要があります。
認知機能の低下は、更衣動作の遂行上の問題化、効率性の低下、指示理解困難、安全性の欠如などの問題に発展します。
身体機能的な更衣動作訓練をスムーズに行うためにも、この認知機能検査によってクライアントの認知機能を明確にしておく必要があります。

関連記事:更衣動作に関しての評価バッテリー、検査方法について

訓練

脳卒中に対する更衣動作訓練としては、“更衣動作の獲得を目的とした訓練”なのか、“更衣動作を手段として用いた訓練”なのか明確にした上での実施が必要です。
前者の場合は、更衣動作遂行の際に問題となる工程や動作要素に対して繰り返し反復訓練を行う、代替訓練を行う…といったプログラムを立案します。
後者の場合は、更衣動作を手段的に用いて機能訓練を行う…といったプログラムを立案します。
例としては以下のようになります。

更衣動作の獲得を目的とした訓練

この場合は訓練目的としては、あくまで“更衣動作能力の獲得”であり、できるかぎり自立のレベルに近づけることとされます。
ですので、更衣動作の評価段階で動作分析を行い、どの動作工程、動作要素に問題点を抱えているのかを明確にした上で、以下のような訓練を行います。

・基本動作訓練
・関節可動域訓練
・筋力強化訓練
・上肢機能訓練
・巧緻機能訓練
基本動作訓練

ここでの基本動作は、更衣動作に関わる動作や姿勢保持の能力向上を念頭に置いた訓練になります。
臥位からの起居動作、端座位姿勢の保持、立ち上がり動作、立位姿勢保持の能力などがあげられます。
注意点としては、ただそれらの基本動作や姿勢変換、姿勢保持が可能なだけでなく、更衣動作を遂行するにあたっての上肢や下肢、体幹の随意的な動きを伴った状態でも保持できることを目標とすることが必要になります。

関節可動域訓練

更衣動作において必要な各関節可動域については、その衣服の形状やタイプ、着脱方法や手順によって変化するため正確に「○○度の関節可動域が必要」と明記はできません。
しかし、各関節の最大可動域の半分以上は更衣動作を自立するためには必要だと考えています(経験則ですが、、、)。
また、脳卒中による片麻痺のクライアントの場合、更衣動作遂行の弊害になるのは、股関節屈曲制限による端坐位保持困難のケースが多い印象を受けます。
股関節屈曲角度90°以下の場合は、どうしても端坐位姿勢を保持しようとしても後方へ倒れやすくなり、なかなか更衣動作を安定的に行えなくなる場合が多くあります。

筋力強化訓練

脳卒中の片麻痺において“筋力”にフォーカスした訓練となると、どうしても非麻痺側の上下肢に対して行う機会が多いような気がします。
更衣動作における非麻痺側上下肢の操作性や衣服に対しての適合的運動の可否を念頭に置いたうえで、非麻痺側上下肢の筋力向上の訓練を行います。
しかし、それが過剰努力を必要とするものなど、負荷量を調整して行わないと片麻痺特有の“連合反応”による麻痺側の痙性亢進を招いてしまい、様々な動作の弊害や痛みの増悪などにつながることもあるので注意が必要です。

上肢機能訓練

麻痺側の上肢に対して機能訓練を行う目的としては、実用手として有用化できるように、もしくは補助手として有用化できるようにするため…になります。
更衣動作においての実用手とは、麻痺側上肢自身が随意的に衣服の把持することができ、袖を通すことができる…のが1つの目安になるかと思います。
それよりも低い能力の段階…つまり補助手としてのレベルとなると、衣服を抑える、ひっかけるといったあくまでも非麻痺側での操作をスムーズにするための補助的な機能をもつレベル…というイメージになるかと思います。
何よりも、麻痺側上肢がどの程度更衣動作に対して強力的な動作を行えるかどうかが、自立できるかどうかのポイントにもなってきます。

巧緻機能訓練

片麻痺のクライアントにおける、更衣動作に対する巧緻機能訓練となると、ボタンやファスナー操作といったものがあげられます。
ただ多くの衣服のボタンやファスナーは両手による操作を基本に考えられているため、麻痺側の巧緻機能が補助手レベルであったらボタンやファスナー操作は可能になる場合があるので注意が必要です。

更衣動作を手段として用いた訓練

更衣動作を“手段”として用いて、機能訓練を図る…という手法は、非常に作業療法的と言えます。
また、これは主にボバースエガースによる治療理論を背景とした手法になるかと思います。

脳卒中の片麻痺のクライアントに対して、更衣動作を手段として用いて訓練を行う場合の目的としては、衣服の形状に身体(麻痺側)を適合させるようにさせる促通訓練…として用いる場合が多い印象を受けます。

衣服を着脱する際の特有の張りをひとつの感覚入力として利用し、“着替える”という動作の遂行を促すことで上下肢、体幹や頭部の促通を図る

…文言として表現すると難しいですが、こんなイメージを持っています。

指導

脳卒中による片麻痺のクライアントの更衣動作に対しての指導で、よく言われるものとしては、

・着衣は麻痺側から、脱衣は非麻痺側から行う
・ボタンやファスナー操作をしやすいように改造する
・自助具を導入する
…などがあげられます。

着衣は麻痺側から、脱衣は非麻痺側から行う

これは比較的定説に近い更衣動作の指導でもあります(笑)。
理由としては、着衣の場合はどうしても衣服の形状や材質によって後から袖や裾に通す側に高い操作性を必要とされるから…になります。
麻痺側の上下肢は、随意性が低い=低操作性であるので、先に袖や裾に通すことでこれを回避する意味になるんですね!

ボタンやファスナー操作をしやすいように改造する

いわゆる代償的アプローチの一つになります。
ボタンを大きな物に付け替える、マジックテープタイプに変更する、ファスナーにループを装着する…などのカスタマイズ例があげられます。
注意点としてはどうしてのその機能性の向上にばかり気をとられ、衣服の見た目を損なうようなカスタマイズになるとクライアントが継続して使用しなくなる…という危険性を伴います。
カスタマイズを行うときは、きちんとクライアントと相談したうえで行う必要があります。

自助具を導入する

自助具を導入するというのも更衣動作における作業療法の指導の1つになります。
ただし、闇雲に自助具を導入するのではなく、更衣動作のどの動作工程、動作要素に問題を抱えているのかを分析的に評価したうえで、その問題動作要素を遂行するために必要な最低限の部分に導入する…という発想が必要です。
また、自助具の操作が拙劣で余計に着替えにくくなった…なんてケースもみられるので、導入後のフォローアップは適宜行う必要があります。

まとめ

脳出血や脳梗塞といった、いわゆる“脳卒中”による片麻痺の方に対しての更衣動作のリハビリテーションについてですが、クライアントの発症してからの時期や重症度、セラピストがもつ治療理論や手技によって変わってくる場合があります。
しかし、更衣動作に対しての評価と、クライアントが更衣動作の獲得をする目的については一貫していないといけないと思います。
今回まとめた内容はあくまでひとつの例ですが、これらを参考に目の前のクライアントの更衣動作に対してのリハビリテーションを発展的にしていただけたら幸いです。

作業療法士は語りたい!

いろんな作業療法士に更衣動作に関して聞くと、
やっぱり“反復訓練”をメインに行っているケースが多いようだね。
その反復訓練もただ「できるようになったorまだできない」ではなく、
分析的な評価と、段階的な治療介入が必要なんでしょうね!

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OT愛東

臨床15年目の作業療法士。
作業療法士としてのキャリアと同時に、音楽関係、アパレル関係、ナイトビジネスなどの経験を経て現在ウェブ事業の展開も行っている。
現在は作業療法士のキャリアアップを目的としたウェブメディア『作業療法プレス』をはじめ、複数のブログメディアを運営。
また、自身の様々なキャリアから、改めて「働き方」を考え、支援するために“働きにくさをリハビリする”産業作業療法研究会を設立。
日本作業療法士協会会員・日本職業リハビリテーション学会員・両立支援コーディネーター

OT若菜

臨床3年目の新人作業療法士。
手先が器用なため、手工芸を用いたアクティビティでの介入が得意。
これといった趣味はなく休日は家でダラダラしている。
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