移乗動作でもある程度下肢に力がある場合は、立ち上がって移乗する方法がスムーズにいくことが多いです。
でも安全性や本人への負担を考えると、工夫や支援が必要になります。
そこで本記事では、立位による移乗動作について、動作分析や福祉機器の視点で解説します。
目次
立位での移乗に必要な動作
立位姿勢で移乗する際の動作を分析すると、次の4つの動作が求められます。
- 立ち上がる
- 立位の姿勢を維持する
- 片足を前方に出し、身体の向きを変える(ステップを出す)
- 静かに座る
以下に詳しく解説します。
立ち上がる
立位で移乗するためには、なによりもベッドや車いすなどから立ち上がる動作が必要になります。
この立ち上がる動作ですが、下肢の筋力の低下や背中が曲がった円背姿勢のため、なかなかお尻が持ち上がらず介助が必要…なんて場合が多くみられまず。
少しでも立ち上がる動作を楽にするためには…
- 足を引くこと
- 身体を前に倒すこと
- 座面を高くすること
…などがあげられます。
立位の姿勢を維持する
立ち上がる動作が可能でも、立った姿勢を維持することが難しいとすぐに座り込んでしまい移乗動作が困難になってしまいます。
この原因は下肢の筋力の低下や膝、股関節などの痛みなどがあげられます。
また、脳血管障害の場合は立ち上がった際の足底の感覚がうまく入らず、「立っている感じがしない」ことから立位の姿勢保持困難につながるケースもみられます。
立位姿勢の維持を楽にするためには、
- 手すりを使用する
- 手すりを両手で把持できるようにする
- 手すりを肩幅程度の距離に離して両手で使用する
…などの工夫が必要です。
片足を前方に出し、身体の向きを変える(ステップを出す)
立位姿勢の状態から移乗する対象物へ座るには、身体の向きを変え、お尻を対象物に向けるステップ動作が必要になります。
このステップ動作がうまくできないと、斜めにお尻から落ちるように座ることになり、転倒や転落の危険が伴います。
ステップ動作をし、身体の向きを変えるためには、片足が一歩でも前方に出せるとスムーズにいきます。
しかし、立位の姿勢を維持するのがやっとの状態の場合は、この「片足を一歩前方に出す」という動作が非常に困難になります。
ステップ動作と身体の向きを変えやすくするためには…
- ステップを出す足にかけた重心を軽くするために、把持している手すりに重心をかける
…といった工夫が必要です。
この際、把持している手すりを頑丈にする、前腕で支持するといった“より安定して体重をかけられるようにする”ということもコツになります。
静かに座る
移乗する対象物にお尻を向ける事ができたら、その対象物に座れば移乗動作の完了ですが、この“静かに座る”というのが意外に難しい動作になります。
下肢の筋力が低下している場合だと、急に膝折れしたように座ることになります。
これは転倒や転落の危険性だけでなく、骨粗鬆症の場合は腰椎の骨折のリスクにもつながります。
できる限り静かに座るためには…
- 把持している手すりに体重をかけながら座る
…ことが必要になります。
立位による移乗に役立つ福祉機器
ここでは、立位姿勢での移乗動作を行う際に便利な福祉機器をご紹介します。
移乗用ターンテーブル
移乗用ターンテーブルは、立位での方向転換を容易にし、ベッドから車いすへの移乗をより安全に行うことができる福祉機器です。
参考:移乗用ターンテーブル /7-4363-01
介助バー
ベッドに取り付けることができる介助バー(スイングアーム)は、角度を自由に固定できる機能がついています。
そのため、利用者自身が把持しやすい角度に設定することができます。
移乗の支援はできるだけ立位の方法で
身体に障害を持ち歩く機会が失われると、それだけで下肢の筋力低下は著しくなってしまいます。
できる限り、生活のなかで“立つ”という機会を作ることが、少しでも残存機能を活かし廃用症候群の予防につながることになります。
そう考えると、同じ移乗動作でもできるだけ“立位姿勢”での移乗動作の自立を支援することが重要かと思います。
ただ、その場合は利用者本人への負担と安全性を確保した上で…という条件が前提になります。
まとめ
本記事では、立位での移乗動作について解説しました。
- 立位での移乗動作には4つの動作が求められる
- 立ち上がるという動作には、足を引き、身体を前に倒し、座面を高くすることが必要
- 立位姿勢の維持のためには、手すりを上手に使用することが必要
- ステップを出すためには、安心して手すりに重心を移すことが必要
- 移乗する対象物に静かに座るためには、使用している手すりに体重をかけながら座ることが必要
- 移乗のための福祉機器を上手く使って安全に自立につなげることも重要
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