健康

SDH(健康の社会的決定要因)の視点が今後のリハビリテーションにとって重要だと思うんです。

 

SDH(健康の社会的決定要因)って言葉、聞いたことありますか?
ここ最近、WHOでも非常に重要性が謳われている概念になるんですけど、今後のリハビリテーション…特に作業療法にとっては重要になってくると思っています。
そこで今回は『SDH(健康の社会的決定要因)とリハビリテーション』について!

Social determinants health(SDH)とは?



“SDH”とは、“Social determinants health”の略称であり、日本語では“健康の社会的決定要因”と訳されます。
つまり、
人々の健康や病気は、社会的、経済的、政治的、環境的な条件によって影響を受ける
…という考え方、視点ですね!

SDHは公衆衛生的視点



人々の健康状態をその人の持つ気質や体質という視点で捉えるのではなく、健康状態を社会水準…つまり公衆衛生学的な視点で捉える視点がSDHの基礎になります。
実際にSDHについての研究はカナダ公衆衛生機関や世界保健機関(WHO)が中心となって進められています。

SDHの背景について

この人々の健康を社会的な要因から紐解いていくというSDHは、

①「死亡率減少の4つの社会的要因」(トマス・マキューン)
②ラロンド・レポートにおける4つの医療領域(カナダ厚生大臣)
③4つの寄与要因(アメリカ/ヘルシー・ピープル)
④社会階層(イギリス/ブラック・レポート)
⑤健康づくりのためのオタワ憲章における健康の前提条件(WHO)
⑥支援環境の4つの側面(健康の支援環境についてのスンツバル声明)
…といった背景が積み重ねられてまとめられた概念のようです。

寓話「どうしてジェイソンは病院にいるの?」からSDHをみる

人々の健康状態は社会的な要因の影響を受けるというSDHの概念は、以下の寓話で解説されることが多いようです。

――どうしてジェイソンは病院にいるの?
それは、彼の足にひどい感染を起こしたからだよ。

――どうしてジェイソンの足には悪い病気があるの?
それは、彼が足を切ってしまって、そこから感染を起こしたんだよ。
――どうしてジェイソンは足を切ってしまったの?
それはね、彼が、アパートのとなりの廃品置き場で遊んでいたら、そこには尖ったギザギザの鉄くずがあったからなんだよ。

――どうしてジェイソンは廃品置き場で遊んでたの
それはね、彼が荒れ果てたところに住んでいるからだよ。そこの子どもたちはそんな場所で遊ぶし、だれも監督していないんだ。

――どうしてそういうところに住んでいたの?
それはね、彼の両親が、もっと良いところに住む余裕がないからさ。

――それはどうしてもっと良いところに住む余裕がないの?
それはね、彼のお父さんは仕事がなくて、お母さんは病気だからね。

――お父さんにお仕事がないって、どうして?
それはね、彼のお父さんはあまり教育は受けていないんだ。それで仕事が見つからないんだ。

――それはどうして?…

これはジェイソンの足の感染という病気の状態の原因は、
元を辿ればジェイソンが置かれている環境、社会的な背景によるもの…という見解になるね!
現段階の疾病や障害そのものではなく、そこに至るまでの原因を社会的な背景から遡ってみていく…ということですね!

病気における「上流」と「下流」という考え方


その病気や障害を招いた結果を川で言えば“下流”と比喩すれば、原因となる社会的な背景は“上流”である…という例えも、SDHの考え方を解釈する際に使われます。
つまり、下流に位置する病気や障害を予防するためには、上流に位置する環境を変化させる必要があるという“新たな公衆衛生”の視点が必要ということです。

ソリッド・ファクツについて


人々の健康を決定するものは、遺伝的要因、生活習慣の他に、以下のような社会的決定要因(ソリッド・ファクツ)によって影響を与えられると考えられます。

①社会格差
②ストレス
③幼少期
④社会的排除
⑤労働
⑥失業
⑦ソーシャルサポート
⑧薬物依存
⑨食品
⑩交通

①社会格差



その国や地域を選ばず、どの社会においても社会的地位が低くなるほど平均寿命が短くなり、多くの疾病が蔓延しています。
その要因を紐解いていけば、低い教育歴、不安定な仕事、貧しい住環境といった社会的経済的ストレスの高い状況下での生活によるものになります。
保険、福祉政策として、このネガティブな状況を打破する方法を提供するという支援も必要になってきます。

②ストレス



ストレスフルな環境では明らかに健康にダメージを与えることは周知の事実とされています。
一時的なストレスは生活上そこまで大きな問題ではないとされているのでしょうが、問題なのは慢性的なストレスになります。
この慢性的なストレス下での生活では、常に不安を抱えたまま過ごすことになり、このことは非常に寿命を縮める事になります。
根本の要因を減らすために置かれている社会的環境(家庭、学校、職場etc)の在り方が重要になってきます。

③幼少期



幼少期の生活…特に母子関係においては支援が必要になる場合があります。
幼少期の母子関係が劣悪な場合、体は成長しても、情緒不安定や社会性の欠如といった心の成長に歪みが生じる場合があります。
精神疾患における病的気質の要因が遺伝的なものではなく、この幼少期の生育歴からみる場合もあります。

④社会的排除



社会的排除…つまり人種差別やレッテル貼り、敵意などによっても生じてきます。
その社会的排除によって、家庭においては別居や離婚の原因となったり、病気や障害の原因となることもあります。
それに加え、アルコールなども含む薬物使用と依存、結果としての社会的孤立…となり、これらの状況はさらなる社会的排除を生むので負のスパイラル化していきます。

⑤労働



職場のストレスは疾病の相対的なリスクを高めることがわかっています。
労働における健康に関しては、その人がどの程度仕事を管理し、コントロールできるかどうか(自由度、裁量権)に依存するようです。
例で言えば、何かしら役職、ポストについていて仕事においての負荷や責任が高く周囲からの要求度が高いのに、自分でコントロールしにくい仕事の場合は非常に健康リスクを高めてしまいます。
また、その労働に対して見合わない低い報酬(満足感も含む)も疾患と関連しています。
対策としてですが、職場内のソーシャルサポートの重要性が示唆されています。

⑥失業



雇用の安定は健康や快適な生活、そして“働き甲斐”をもたらします。
失業割合が高ければ高いほど、健康リスクも高めてしまいます。
これは不安定な生活状況に対しての不安感が根本の原因になってくるようです。

⑦社会的支援(ソーシャルサポート)



家庭、職場、地域、友人関係といった強固で好ましい社会的関係、支援ネットワークは良好な健康を推進します。
昨今の高齢者の孤独死問題などを見ると、この社会的支援の重要性は改めて感じ取れますし、早急な対策が必要になってきます。

⑧薬物依存



薬物といっても大麻や覚せい剤などの違法薬物に限らず、喫煙やアルコールもここでは含まれます。
それらの依存、常用に至るまでには、個人の責任だけではなく、様々な社会的背景も影響しています。

⑨食品



食料の供給は世界市場が大きく関わっていることから、健康的な食品の確保=政治的課題として捉えられます。
多くの国において、貧困層の人々は新鮮な食料品の代わりに安い加工食品を食べる傾向にあります。
これは肥満の問題にもつながります。
現に肥満は富裕者層より貧困者層に多くなっている傾向があります。

⑩交通



健康的な交通システムとは、公共交通の充実であり決して自動車保有率ではないということです。
公共交通機関が充実することで、自動車運転の機会が少なくなり、結果ウォーキングやサイクリングという方法が主流になり、運動量の増加、死亡事故の減少、大気汚染の減少に関与していきます。

SDHにおけるWHOの提案について


これらのソリッド・ファクツからどのように人々の健康を守り、生活を改善していくか…という点について、WHOの健康の社会的決定要因委員会の3つの提案は以下のとおりになります。

a)日常生活の状況の改善
b)権力、金銭、資源の不公正な分布の是正
c)問題の測定と理解、行動の影響の評価

a)日常生活の状況の改善

健康の格差は、日常生活の改善にあります。
“③幼少期”のころからの生活水準を確保し、健康でいるためには“⑤労働”や“⑥失業”対策も必要になってきます。
一定の健康的な生活を送れる収入が誰でも確保される社会的保護の政策が必要になってきます。

b)権力、金銭、資源の不公正な分布の是正

権力による恩恵、お金、様々な資源があるところにはあり、ないところにはない…という明確な格差をがあるのではなく、
どの人にも公正に与えられているという社会のありかたが重要になってきます。
この公正には男女の不公平、政策の不公正といったものも含まれてきます。
これらの不公正を是正するという取り組みが必要になってきます。

c)問題の測定と理解、行動の影響の評価

人々の健康格差を測定し、政策によってどのように変化したかの評価も必要になってきます。
そのためには、調査、評価を行い、しっかりとしたデータ収集、解析によるエビデンスの確保が重要です。

リハビリテーションとSDH

SDHという考え方や概念を調べるうちに、非常にリハビリテーション…特に作業療法的な視点だとも感じています。
健康状態を個人が持つ気質のみならず、その人が置かれている環境…もっと広くみて“社会”という視点で掘り下げていく…。
これは“病気”をみるより、“病人”をみるのに長けている作業療法士にとっては、ごく自然にしていたことなんです。

ICFとSDH

ICF(国際生活機能分類)でその人の生活をみていくことは作業療法士にとって重要なことです。
でもICFにおける生活機能、背景因子をもっと深く掘り下げていくのに、このSDHは非常に役に立つと思います。
ICF×SDHによって、クライアントが持つ生活障害をさらに深く掘り下げていく視点が、今後自然な流れになるかもしれませんね!

まとめ

SDHというまだ聞きなれない言葉ですが、大まかでも概要はつかめたでしょうか?
このSDHって生活支援に関わる職種である作業療法士にとって、今後非常に重要な捉え方になると思うんです。
病気や疾病、障害を含めて、社会的な背景から紐解いていくという取り組みは、今後のリハビリテーションには必要不可欠なことになってくるはずです!

作業療法士は語りたい!

今後リハビリテーションの主流が医療から地域に移行していくと思うんだけど、
そうなるとこのSDHの発想でクライアントの生活をみていくプロセスが必要になってくると思うんだ。
生活様式の多様化が進んでいる現代だからこそ、医学的なリハビリテーションではもう限界にきているんでしょうね!

参考記事:社会経済的な格差と健康、それを知るのもヘルスリテラシー

 

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OT愛東

臨床15年目の作業療法士。
作業療法士としてのキャリアと同時に、音楽関係、アパレル関係、ナイトビジネスなどの経験を経て現在ウェブ事業の展開も行っている。
現在は作業療法士のキャリアアップを目的としたウェブメディア『作業療法プレス』をはじめ、複数のブログメディアを運営。
また、自身の様々なキャリアから、改めて「働き方」を考え、支援するために“働きにくさをリハビリする”産業作業療法研究会を設立。
日本作業療法士協会会員・日本職業リハビリテーション学会員・両立支援コーディネーター

OT若菜

臨床3年目の新人作業療法士。
手先が器用なため、手工芸を用いたアクティビティでの介入が得意。
これといった趣味はなく休日は家でダラダラしている。
現在彼氏募集中。
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