高次脳機能障害に対しての作業療法的介入の3つの原理について

作業療法士(OT)が高次脳機能障害を持つ人に介入することの理由や意味を考えると、決して「神経心理学検査で問題が見つかったから」ではいけないんですよね。
むしろ「その人らしい作業行為が阻害されているから」という理由のほうがしっくりくるのかなと。
その為にはやはり高次脳機能障害に対しての作業療法的介入って「意味のある作業」である必要があると思うんです。
そこでこの高次脳機能障害を持つ人に対しての作業療法的な介入の3つの原理についてまとめてみました。

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1:作業介入による認知機能の向上とADL等の質の向上


これは、『作業によって認知の機能を高め、その結果間接的にADL等の質を高める場合がある』という原理を基にしています。

OT訓練場面で半側空間無視の患者に『写生』という課題を与えたとして、その作業課題を与える理由ってなんでしょうか?
それは決して写生の技術力を高めるためではなく、写生という課題によって『視空間知覚統合という要素的機能を改善する』為であると言えます。

また、認知障害(注意、記憶、抽象思考などの障害)を有する患者に『算数文章課題』や『文意要約課題』を与える狙いは、それによって『ワーキングメモリや論理思考の力が改善すること』と言えます。
その結果、実生活にも改善されることを期待する…ということになります。
(もちろんその患者が提供課題に対してネガティブなイメージを持っていないことが大前提でしょうけど。笑)

1987年のSohlbergらの報告 1。からでも理解できるように、遂行要素としての脳機能は単純に低下しているか、あるいはなんらかの原因によってその実現を阻まれているとみなされています。
そしてそれらは、“筋肉のように強化”するか、“姿勢のように矯正すること”が可能だとみなされており、それらの要素が改善されれば、作業遂行能力はおのずと改善されるはず…とみなされています。

2:作業工程を工夫することによる類似の作業遂行能力の獲得


これについては、『遂行要素としての脳機能が喪失したとしても、その方法を工夫してやることで再び類似の作業遂行要素(または能力)を獲得できる』という原理が基になります。

半側無視があるために読本の読みが不十分な患者に対して、『ページの左端に赤線を引く』という“アンカー刺激”を与えて読みの訓練を行うことは、病前とは異なる農家色を使って文字列を読み進むようになることを狙っていると言えます。この場合選ばれた課題は、「本を読む」という実生活課題に強く関連付けられています。

1988年のGilesらの報告 2にあるような働きかけは、機能学習を狙っていると言えますが、これは作業遂行要素に関しても、作業遂行領域に関しても行うことができると言えます。
ただ、要素に働きかける場合も、特定の作業遂行課題と関連付けられていることが多く、共通の原理としてはLuriaの3つのメカニズムで言う『脳機能の再組織化』に当たると言えます。

3:環境調整による作業遂行能力の獲得


これは『環境の調整もまた患者の作業遂行の質を改善し得る』という原理を基にしています。

ここでいう環境とは広義の意味であり、その患者が利用可能な道具、住居や設備、そして家族や友人、セラピストと言った取り巻く人々を指します。
1989年のGilesらの報告では、重度の記憶障害を有する患者に対してアラーム付きの電子ノートを利用することで『自己生活時間管理』という生活能力を高めることに成功した…とあります。 3 また人的環境も大きな可能性を秘めています。
独りでは何もできないほどに脳機能が低下した患者であっても、他者の力を借りることで“よい時間”を過ごすことができる…ということは非常に大きな意味を持つと考えられます。
OTの思想で言ったら、“よい時間”を過ごすことは、その人がその人らしい作業遂行を実現し得ているということ…になりますね!

まとめ

上述した第1の原理は作業療法のなかの「医学的モデル」の原理ともいえます。
同様に第2の原理は教育の世界でも使われている考え方に近いことから「教育モデル」と呼ぶに問題はないと言えます。
そして第3の原理については「共生的モデル」の原理と言えます。

高次脳機能障害を持つ患者に対しての治療的介入のベースにどの原理を選ぶかについてですが、これはセラピストの考え方うんぬんというよりは、その患者がどの原理のなかでよりよい作業遂行を実現できるか…という判断をすることが望ましいでしょうね。

作業療法士は語りたい!

高次脳機能障害の症状に対しての治療介入は、
OTの臨床や現場においても最も「手さぐり」な印象がありますね。
そうなるとやっぱりそのクライアントを担当するOTの力量によって
改善の差ができてしまうのは問題になっちゃうと思うんだ。
ある程度一定の効果が期待できる体系化した治療介入の必要性があるかもしれないですよね!
参考文献:作業治療学5 高次脳機能障害 (作業療法学全書 改訂第3版)

Notes:

  1. 頭部外傷患者に対してSohlbergらが開発したデスクワーク的な注意訓練法を実施することによって「注意」の成績が改善した、という報告。
    しかし、この訓練法の結果は注意力のみ改善したということから非常に領域特異的であったが、患者にとっては日常生活の改善につながるには十分だった様子。(Sohlberg MM,Matter CA:Effectiveness of an attention-training program.J Clin Exp Neuropsychol 9:117-30,1987.)
  2. 記憶、注意、発動性の障害がある頭部外傷患者3名と脳炎後の患者1名に行われた行動療法的アプローチ。朝の身仕度を学習させるという目的のため、朝の更衣動作、歯磨き、整容動作という一連の工程を指導するといった内容。その際患者の反応に合わせて声掛け→促し→部分介助といった介入と、行為が完了した際には“褒める”という方法をとった。その結果、1名は10週目に自立、2名が8週後、16週後に手助けを要しない段階に達した、という報告(Giles GM,Clark-Wilson J:The use of behavioral techniques in functional skills training after severe brain injury.Am J Occup Ther 42;658-665,1988.)
  3. この患者の場合、記憶障害は重度でもその電子ノートを操作できるための平均的な知能指数が必要です。